令和三年霜月朔日
霜月朔日歌合
左
風雅和歌集 秋歌下
みるままに 壁に消えゆく 秋の日の
時雨に向かふ 浮き雲の空
進子内親王
右
平成十八丙戌歳
路地に散る 枯葉の音に 行く秋の
心吹かれて 今日も暮れけり
大塔宮鎌倉宮 宮司 小岩裕一
霜月朔日の和歌
霜月、つまり十一月は、「立冬」を迎えるまでが「晩秋」、それ以降は「初冬」、という微妙な季節です。
朝夕の冷え込みは日に日に増し、秋というよりも冬、という気配を感じることが、次第に増えて来るのです。
掲出の一首は、そんな「冬の足音」を意識したかのような世界、秋の色彩を眺めながらも、モノトーンな初冬の雰囲気を感じ取る、繊細な感受性…晩秋から初冬の季節、誰もが胸に呼び起こす、言い知れぬ寂しさ…それを描いた進子内親王は、第九十二代・伏見天皇の皇女ながらも地方で成長し、成人してから京都の人となった、非常に異色の経歴の持ち主であり、独特の憂いを帯びた声調が、秋と冬との間で揺れる、この季節を的確に表現しています…。
鎌倉宮第二十六代宮司 小岩裕一識
令和三年霜月望日
霜月望日歌合
常徳院殿御集 秋
つゆしぐれ のこれるやまの
もみぢばに
ゆうひをそめて あきかぜぞふく
常徳院内大臣源義煕
令和三辛丑歳
このはちる たそがれどきの
かぜのいろを
ほのかにてらせ あきのよのつき
大塔宮鎌倉宮 宮司 小岩裕一
霜月望日の和歌
十一月も半ばを過ぎると、温暖化の進んだ世界に生きる私たち現代人にも、季節が秋から冬へと移り変わりつつあることが実感されます。
掲出の一首は、まさに晩秋から初冬へと移り行く情景を詠んだもの。
丁寧で的確な言葉遣い、静から動への繊細でうつくしい流れ…この歌を詠んだ時、まだ十九歳の若さだった天才・義煕の、面目躍如たるものがあります。
数え二十五歳で世を去った義煕の短い人生のように、この季節は寂しく、かげりのあるもの…その空気を味わいながら、季節は今年も、年の暮れへと向かって行くのです…。
鎌倉宮第二十六代宮司 小岩裕一識